肺癌の病理所見では、組織型とリンパ節転移の有無がステージやその後の治療方針に重要ですが、それ以外にも予後に関する所見がいくつかあります。
胸膜浸潤
肺の表面には、胸膜という薄い膜があります。癌が大きくなり肺の表面に達し、肺の表面にある胸膜を破ろうとしている、あるいは破ってしまった状態を胸膜浸潤ありと言います。
胸膜浸潤があると、胸膜播種や胸水として癌の再発するリスクが高くなります。
脈管侵襲(血管、リンパ管)
肺の中には細かな血管やリンパ管があり、その中に癌細胞が入り込んでいる状態のことを言います。血管やリンパ管に癌が入ると、それを伝って全身に癌が転移する可能性が高くなります。
脈管侵襲
(血管内に癌細胞が入り込んでいる)
脈管侵襲(拡大)
肺内転移
癌が血管やリンパ管などを伝って、肺内に転移した状態です。同じ肺葉内か(pm1)、別の肺葉内か(pm2)、反対側の肺か(pm3)の順に予後が悪くなります。なお反対側の肺への転移は、遠隔転移としてそれがあるだけでステージ4になります。
肺内転移
経気腔進展 / spread through air spaces, STAS
数個の癌細胞が小さな塊をつくり、肺の中の空気があるスペースに沿って広がることを言います。肺腺癌、特に微少乳頭型に多く見られます。
これがあったからといってステージは変わりませんが、ない症例に比べると明らかに転移や再発をしやすいことがわかっています。
経気腔進展 STAS
STAS(拡大)
切除断端
肺癌の手術(肺葉切除)を行うためには、切除する肺へつながる気管支、動脈、静脈、肺を切る必要があります。癌の広がりが大きい場合、それらの切り口まで癌がおよび、結果的に体の中に癌細胞が残ってしまうことがあります。
外科医が手術するにあたってこのいわゆる「取り残し」はもっとも起こることのないように気を配っている点ですが、これ以上切ると肺の取る量が多くなるためやむを得ない場合や、肉眼的には取り残しがなくとも顕微鏡的な浸潤が予想を超えて広がっていた場合に起こりえます。
この取り残しがあった場合には、再手術、放射線治療、抗がん剤治療、慎重な経過観察など、取り残しの状況や理由によってその後の対応を検討します。
胸腔内洗浄細胞診
癌が進行すると、肺の中から胸腔内へと癌細胞がこぼれでることがあります。
肺癌の手術を行う時には、胸腔内に水(生理食塩水)を入れて胸腔内を洗浄し、その洗浄した水を回収することで癌細胞が胸腔内にこぼれていないかどうかを調べます。
胸膜浸潤のある症例やリンパ節転移のある症例にしばしば見られる現象であり、現在は癌のステージや治療方針の決定に関わりませんが、ない人に比べると胸腔内(胸膜播種や胸水)の再発をしやすいと報告されています。
洗浄液中の癌細胞
洗浄液中の癌細胞
胸水細胞診
癌に対する手術を受ける時、通常胸水がたまっていることはありません。もし癌による胸水があった場合、手術ではなく抗がん剤の治療になるからです。
しかし、稀に手術前の検査ではわからないくらい少しの胸水がたまっていることがあります。その時には手術中にその胸水を採取して癌細胞の有無を調べます。
レントゲンで明らかに胸水がたまっている人は、手術でなく外来などで胸腔穿刺(胸に針を刺すこと)を行い、胸水細胞診を行うことがあります。癌の診断目的、あるいは再発した時の診断目的で行われます。
胸膜播種
癌が進行することで、胸の壁の内側や肺の表面に癌細胞がばらまかれたように転移することを言います。胸水を伴うことがおおいですが、胸水がない場合もあります。胸水がない場合は、しばしばCTやPET-CTでも見つけることが難しいことがあり、手術をしてみて初めて発見されることがあります。
この胸膜播種は癌の転移の一種ですので、発見された時点でステージ4になり、治療は抗癌剤によるものになります。
手術中に初めて診断された場合には、手術を途中で中止し、肺癌の本体をとらずに胸を閉めて終了することがあります。胸の中全体に癌細胞が散らばるように転移しているため、手術では治療しきれないためです。