リンパ節転移について

 癌はその性質上、転移をすることがあります。全ての癌において、リンパの流れに応じて所属リンパ節という範囲が決まっています。所属リンパ節というのは、その癌・その場所に特化した領域のリンパ節のことを指し、それより先(遠方)はほかの臓器と同じように遠隔転移として扱われます。

そもそもリンパとは

リンパ液

 毛細血管から漏れ出たたんぱく質の一部や脂肪分を回収し、元の血管(静脈)へ戻すための液体です。血液中の老廃物もこのリンパ液に流れ込みます。

 さらに、リンパ液にはリンパ球などの人の免疫に関わる重要な細胞が多く含まれています。体内に病原体(細菌やウイルス、癌細胞など)が侵入した場合、このリンパ液中に回収され免疫細胞により排除されます。

リンパ節

 さまざまな種類の免疫細胞が集まった構造で、リンパ液へと回収された病原体(細菌やウイルス、癌細胞など)を排除するためにひっかける器官です。免疫細胞の攻撃拠点となる基地のような存在です。

 かぜをひくと、あごの下や首のリンパ節が腫れた経験があるかと思います。それはリンパ節でつかまった細菌やウイルスが免疫細胞によって攻撃を受けているためです。予防注射の後にわきの下が腫れる、足にばい菌が入る下肢蜂窩織炎では足の付け根が腫れる、というようにリンパ節にはそれぞれが管轄している領域があり、全身のリンパ節は500-1000個あります。

リンパ節転移とは

 漫画「はたらく細胞(清水茜、講談社)」のがん細胞の回にあるように、癌細胞も免疫細胞の攻撃を受けて排除されます。しかし、癌細胞は増殖のスピードがとても速い上に、攻撃を受け続けると免疫細胞の攻撃をブロックするようになってきます(癌の免疫逃避機構)。

 そうなると、リンパ節が癌細胞に占拠されてしまいます。その占拠された状態が「リンパ節転移」です。

 肺癌の場合、同じ肺葉内のリンパ節→肺門リンパ節→縦隔リンパ節の順に転移をしていきます。縦隔リンパ節の先は、頸部のリンパ節を経由して全身へとまわっていきます。

 そのため、肺癌のリンパ節転移は3段階にレベル分けされています。(TNM分類の"N")

  • N0:リンパ節転移なし
  • N1:同側の肺内・肺門リンパ節への転移
  • N2:同側縦隔リンパ節への転移
  • N3:対側縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の肩口(前斜角筋、鎖骨上窩)リンパ節への転移

*肺癌取り扱い規約 第8版より

シアン:肺内リンパ節

黄:肺門リンパ節

赤:縦隔リンパ節


リンパ節転移の診断

 肺癌におけるリンパ節転移の診断は、病理学的診断(細胞や組織を直接顕微鏡で見る)以外の方法ではとても難しいのが現状です。

 

 造影CTやPET-CTでリンパ節転移についてある程度の予測は出来ますが、肺のリンパ節は結核などの過去の感染症、間質性肺炎などの慢性炎症、職業での粉塵・アスベスト吸入、サルコイドーシスなどのリンパの病気など、さまざまな原因で腫れたりPETに反応したりするため、あてにならないこともよくあります。

 

 そのため、手術前にはリンパ節転移なしと言われていたのに手術後に転移があったと言われたり、手術前に転移していると言われたのに手術後にはなかったと言われたりすることがあります。

手術前に予測できた

リンパ節の大部分が癌細胞に占拠されている

手術前に予測できなかった

転移している癌細胞はちらほら