転移性肺腫瘍の外科治療(大腸癌転移を中心に)

転移性肺腫瘍手術の始まり

1965年、この論文によって「Thomfordの適応」というのが提唱された。これが転移性肺腫瘍外科治療の始まり。


Thomfordの適応は以下;

選択された患者群に手術を行った結果をretrospectiveに解析すると5生存率が30%

 ①原発巣がコントロールされている

 ②他臓器に転移が無い

 ③片側転移

 ④手術に耐えうる全身状態 

Thomfordの適応をどう考えるか。

Thomfordの適応ができた時代は、抗癌剤が効かなかった(有効なものがなかった)ため、純粋に手術による予後を検討していたと考えられる。

では、実際のデータはどうか。

Outcomes and prognostic factors of survival after pulmonary resection for metastatic gastric cancer

Shiono, Euro J Cardio Thorac Surg; 2013 e13


Disease-Free Interval Length Correlates to Prognosis of Patients Who Underwent Metastasectomy for Esophageal Lung Metastases

Shiono, JTO 2008;3: 1046

 


Surgical outcomes for pulmonary metastases from hepatocellular carcinoma

Kawamura, Eur J Cardio-Thorac Surg 2008;34:196

 


 確かに、肺に転移臓器特異性が高くなく、薬物療法の有効性も高くない腫瘍の場合、外科医が手術適応ありと判断した症例の5年生存率は30%くらい、になりそう。

現代、転移性肺腫瘍を切除する目的はどう考えるべきなのか。

転移性肺腫瘍を切除する意義

  1. 治癒(手術単独/集学的治療の一環)
  2. 生存期間の延長(手術単独/集学的治療の一環)
  3. QOLの改善
  4. 診断(病理学的精査による原発巣の特徴)
  5. 化学療法の効果予測因子の検証(遺伝子情報、PD-L1発現など)

全身化学療法の進歩とそれによる予後の改善が、3-5の意義を重要視させることとなってきている。

最近の転移性肺腫瘍の手術適応はどうなるのか。

  • 両側肺転移も手術可能
  • 原発巣は手術以外の方法での制御でも可
  • 他臓器転移があってもそちらも制御する予定があれば可
  • 肺転移を全部取らなくても (取れなくても) よい
  • 診断、遺伝子情報などを得る目的で1個だけ切除も可

 転移元の臓器、さらにはその組織型、個々の症例の臨床経過などによって判断が求められており、適応は広くなってきているがその分複雑であり、主治医単独、呼吸器外科単独で決定すべきではない。

転移性肺腫瘍の手術として最多の大腸癌について考える。

肺に対する転移臓器としての特異性が高い腫瘍

・骨肉腫

・大腸癌

・腎癌

 

肺に対する転移臓器としての特異性が低い腫瘍

・乳癌

・食道癌

・胃癌


Group A (1990-1990)

 5-FU monotherapy

 

Group B (2000-2004)

 5-FU with folinic acid

 

Group C (2005-2007)

 FOLFOX or FOLFIRI ± bevacizmab

 

やはり、化学療法の進歩により外科切除の成績もよくなっている!!


大腸癌肺転移、結局のところ手術の適応をどう考える?

・転移巣は必ずしも同一のCTで同時に出現するわけではない。


・手術を急ぎすぎると、施行直後に他の転移巣が出現する可能性もある。

 

・とはいえ、待ちすぎるのも治療のタイミングを逸してしまう可能性がある。

・2年から2年半くらいを過ぎると、肺以外への全身転移の頻度が増えてくるようだ。


単発肺転移かつ末梢で部分切除可能

→切除(観察期間中央値2ヶ月)

 

切除可能だが…

・部分切除以上(区域切除や肺葉切除)が必要

・単発肺転移と腹部病変(疑い含む)

・多発肺転移

→3ヶ月の経過観察(±化学療法)

 

→新規病変の出現なければ切除

→新規病変出現時は再度3ヶ月経過観察に戻る

→非切除

・新規肺病変・新規腹部病変・化学療法奏功症例


本日のまとめ

最近の化学療法の進歩により

  • 両側肺転移も手術可能
  • 原発巣は手術以外の方法での制御でも可
  • 他臓器転移があってもそちらも制御する予定があれば可
  • 肺転移を全部取らなくても (取れなくても) よい
  • 診断、遺伝子情報などを得る目的で1個だけ切除も可

ただし、

  • 手術の目的は1つではない
  • 全体の臨床経過より手術のタイミングを考える
  • 切除の技術的な問題も考慮にいれる